液体窒素療法とは、簡単に言ってしまえば
「凍結」と「融解」を繰り返す治療法です。
具体的には、
マイナス196℃にも達する超低温の液体を綿棒などに染み込ませ、ウイルスに冒されている患部を急激に冷やす(凍傷)ことで皮ふ表面の異常組織を壊死させます。
すると、壊死した異常組織の下の皮ふが細胞分裂をはじめるため、新たな皮ふが再生してきます。
このように、凍結と融解を繰り返すことで基底細胞(表皮の一番奥にある層)に感染しているウイルス(つまりイボ≠フ芯)を徐々に上へ押し上げイボ≠フ原因を絶つことから「凍結療法」とも呼ばれています。
凍結療法の方法
以下の主な写真は日本皮膚科学会HPから転載。
綿棒に液体窒素を含ませながら治療します。綿棒はイボの大きさにより、綿を巻いて補強します。
液体窒素はこの容器で保存します。
液体窒素を含ませた綿棒をイボに押し当てます。押し当てる強さや回数はイボの状態を見て判断しますが、ここはカンと経験が大きく影響します。
治療後2日目です。一部水ぶくれを生じています。イボの下で水ぶくれができることが理想です。
治療後5日目です。水ぶくれがカサブタになりつつあります。無理に剥がずにカサブタの下に皮ふが新生するのを待つ方が痛くないです。
治療後8日目です。カサブタがとれて、イボが消失しています。すこし、傷が残っています。皮膚が完全に治った後で、イボがなければ治療は終了です。イボが残っていれば、再度冷凍凝固を行います。
一度でイボがすべてとれることはまれです。数回続ける必要があります。特に、足の裏のイボでは10回以上治療することもまれではありません。
だいたい、3週間の間隔で治療を行うことが一般的です。
3週間目にカサブタが残っていれば、カミソリで削ります。点状に出血すればイボが残っていると考えます。
凍結療法後の経過〜強くするほどよくとれる
冷凍凝固という治療は、簡単に言えば
「イボの下に水ぶくれを作り、水ぶくれの上に全てのイボが乗っかっていれば1回で治る」
という治療です。
ですので、
単純に強くするほどイボがとれます。
ここで皮ふという組織の構造を考えてみましょう。
表皮には血管がありません。
真皮には血管があります。
すなわち、
表皮内で水ぶくれができると
透明な水ぶくれになります。
真皮内で水ぶくれができると血液の混ざった
黒い水ぶくれになります。
表皮内に水ぶくれができたときのイメージです。シェーマにしてみました。
この場合、真皮の血管は破れませんので、
透明な水ぶくれになります。
表皮内の水ぶくれです。内溶液が透明であることがわかります。浅いイボならこれでも治ると思います。しかし、
深いイボでは、この程度の水ぶくれではとれないことが多いですね。
それに対し、真皮内で水ぶくれができれば
黒い水ぶくれになります。
同様にシェーマにしてみました。
真皮の血管が破れますので、水ぶくれ内に血液が流入して
黒い水ぶくれ(
血疱と呼びます)になります。
血疱を形成
血疱を形成
血疱を形成
深いイボでは、このくらいの黒い水ぶくれになるくらい強めに冷凍凝固をしなければ治らないことが多いです。(これくらいやっても治らないこともしばしばです。)
ただし、冷凍凝固後はしばらく
激痛が続きます。
ですので、最初からあまり強めに冷凍凝固を行い血疱になると、治療自体を嫌になって継続できないことが多いです。
最初は控えめに、治療の経過を見て徐々に強めにしていくことが多いですね。
大きい血疱ができたときには、
血疱を切開して排液します。そうすれば痛みはずいぶん和らぎます。
※ちなみに、冷凍凝固の効果には直接的な凍結作用以外にも
免疫の賦活化といった作用も考えられています。話が複雑になるので、その点を全く考慮に入れず説明をしていますので、ご了承ください。
凍結療法の利点、欠点
- 利点
- 保険の適応です。
- 治療が簡単で、何度でもくり返すことができます。
- 小児でも治療できます。(押さえつける必要がありますが。)
- 凍結によりイボを含む組織を壊死させる直接的な効果とともに、イボのウイルスに対する免疫力を上げ患者さんの免疫力でイボを治療する間接的な効果も期待できます。
- 欠点
- 治療中、治療後に激しい痛みがあります。←小児ではこれが一番の問題!
- 液体窒素を押し当てる強さや時間によって効果に差が出ます。 ←強めの方がよく効く!
- 大きな水ぶくれができると、生活に支障を生じるととがあります。 ←これで苦情を言われることが多い!
- 強く治療しすぎると、瘢痕(きっぽ)になる可能性があります。 ←足の裏や手のひら、指の屈側では滅多に起こりませんが、手や足の甲、指の伸側、すね、腕、体などでは可能性があります。なので、これらの部位では冷凍凝固を弱めに行います。