皮ふ科に来院される腫瘍では間違いなく一番多いと思いますが、厳密には腫瘍ではなく一種の組織の奇形です。胎生期に神経にも色を作る細胞にもなりきれなかった細胞が母斑になるといわれています。
多くの母斑は良性ですので問題ありませんが、ごくわずかに悪性の母斑があり
「悪性黒色腫(あくせいこくしょくしゅ)」と呼ばれます。 母斑の治療ではまずこの悪性黒色腫を見逃さないことから始めます。ダーモスコピーという検査器具で80%以上の確率で母斑と悪性黒色腫を鑑別することができます。
ダーモスコピーによるほくろの診断
当院ではダーモスコピーの写真をモニターに表示し、説明します。
しかし、実際には切除してみなければ良性と断言できないことも多く、そのときは手術を勧めます。また、生まれながらに存在する母斑はまれに悪性黒色腫に変化することがあるため、足の裏など悪性黒色腫の生じやすい部位では切除を勧めることがあります。
このようにダーモスコピーにてかなりの確率で悪性黒色腫を否定することができますが、中には
組織検査を行わなければ判断できないことがあります。
そのため、切除以外の治療が可能かどうかは
医師がダーモスコピーの所見に基づき判断します。仮に、少しでも
診断に疑問があったり、悪性黒色腫を否定できない所見があるときには、切除以外の治療はできません。
※注意!
○他院で炭酸ガスレーザーを施行され再発したほくろについては、当院で
炭酸ガスレーザーはできません。切除は可能です。
一度炭酸ガスレーザーを施行されたほくろをダーモスコピーで
正確に評価できないためです。
ご了承ください。
(当院で炭酸ガスレーザー後に再発したほくろについてはもちろん治療は可能です。)
○中学生までのほくろには原則炭酸ガスレーザーを行いません。
成長により変化を生じることがあるためです。安静が保てれば、
切除は可能です。
(成長期の子供のほくろを炭酸ガスレーザーで治療しても、その後周囲にほくろが新生することがあります。まだほくろも成長段階にあるということですね。)
○未成年の方は、保護者の同意がなければ治療はできません。保護者と一緒に受診して頂くか、同意書に保護者の署名を頂いてから後日治療を行います。
「ほくろ」の治療方法
大きく分けると、
- 切除:メスで切除して皮ふを縫合する方法
- 炭酸ガスレーザー:レーザーで削りとる方法
- ルビーレーザー:色素のみ破壊する方法
の3通りです。
次におのおのについて説明します。
「ほくろ」の切除について
局所麻酔をしたのちに、メスで皮ふを切開し脂肪の深さでほくろを切除します。欠損部は
皮ふを縫合することで閉鎖します。
- 利点
- 切除した組織を検査に提出することができますので、悪性と良性の診断をほぼ確実にすることができます。
- 完全に切除するため、再発することはまずありません。
- 深くまで濃い色素があるほくろでは切除の方が適当です。
- 保険適応です。 (繰り返し同部位の治療を行う場合、保険が認めてくれないこともあります。)
- 欠点
- 縫合するため、抜糸が必要です。
- 初診日には治療できません。
- 縫合した線状の傷にはしばらく赤みが残ります。(半年経てばほぼ消失しますが。)
- 炭酸ガスレーザーと比較すれば、術後のトラブル(感染症、出血など)が多い。
2か所のほくろを切除しました。術後半年後ですが、赤みはほとんど残りません。
術後2ヶ月ですが、まだ赤みが少し残ります。
頭皮のほくろの切除については、
側頭部と
後頭部は当院でも切除が可能です。(大きさ次第ですが)
前頭部と
頭頂部は出血が多く、皮ふの緊張が強いため、当院では切除できません。総合病院を紹介することになります。
自分で皮ふをつまんで、皮ふを寄せることができる部位かどうかを判断してみてください。
いずれの部位でも、炭酸ガスレーザーは可能です。
予約治療になります。
初診日に手術はできません。
手術時間は、13:00〜、13:30〜の二枠です。
治療は1個ずつになります。同月内に2回の治療はできません。
「ほくろ」の炭酸ガスレーザーの治療について
局所麻酔をしたのちに、炭酸ガスレーザーでほくろを削ります。
ほくろは深部まで続いていますので、ある程度の深さまで削り終了します。ほくろを全て除去することを前提にはしていません。
削った後は縫合はしません。自然に皮膚が閉鎖するまでり薬をつけてもらいます。決して乾かないようにすることが重要です。その後は数ヶ月遮光してもらいます。
血流のよい、
顔面や頚部、頭部で適応になります。従って、
体や手足では適応になりません。切除の方がよいと思います。
ほくろの一部を削り取ります。上の図のようにある程度削った後は、穴を開けるようにまだらに削ります。
左上口唇のほくろです。
炭酸ガスレーザーで削切した直後です。真皮の浅層まで削ることが重要です。
治療後1年後です。わずかに瘢痕になっていますが、あまり目立ちません。わずかに再発があります。
炭酸ガスレーザーでの治療では母斑を完全には除去できないため、
再発が認められることがあります。再発したときは、再度軽く削るか、Qスイッチルビーレーザーで対応します。初回からあまり深く削らないことが炭酸ガスレーザーの治療のコツですので、その点には理解を頂く必要があります。
- 利点
- 縫合しないため、抜糸が不要です。
- 基本的に初診日に治療が可能です。(混んでいるときや遅い時間の受診では治療できない場合もあります。)
- 術後のトラブル(感染症、出血など)はほとんどありません。
- 治療にかかる時間は10分程度です。
- 欠点
- 完全には切除しないため、再発の可能性があります。
- 切除した組織を検査に提出することはできません。 つまり良性か悪性かの判断はできません。
- 削る深さによりますが、少し陥凹した痕が残ることがあります。
- 盛り上がりが強く、濃いほくろでは、色素が完全にとれず、最終的に切除が必要になることがあります。(最初から切除しておけばよかったと後悔することもあるかもしれません)
炭酸ガスレーザーで母斑を削る前と、削った後3ヶ月経過したところです。母斑は消失していますが、わずかに再発があることがわかります。
術後1ヶ月です。まだ赤みが残ります。
こういう部位が一番悩みます。赤唇縁がずれないように切除すれば、その方がきれいになるかもしれません。
炭酸ガスレーザー後1年3ヶ月です。写真の角度が悪いですが、少し陥凹が認められます。再発はありません。満足されていますので、結果としては炭酸ガスレーザーでよかったと思います。
「ほくろ」のルビーレーザーの治療について(自費治療)
Qスイッチルビーレーザーで治療を行います。
このレーザーはシミやあざに使用するレーザーです。
詳しくは、
Qスイッチルビーレーザーのページを参照してください。
黒い
色素のみ破壊するレーザーですので、
隆起のあるほくろの治療はできません。
平坦な色素のみのほくろに用いる治療です。(指で触れて少しでも膨らみを触れるときには適応外です。)
- 利点
- 色素のみを破壊するので、基本的に皮ふを傷つけません。
- 一度にたくさんのほくろの治療が可能です。
- 受診当日に治療が可能です。予約は必要ありません。
- 欠点
- 保険の適応がありません。自費治療です。
- ほくろは色素が深いため、1回の治療で完全に消すことはできません。繰り返し照射する必要があります。色素量によっては完全に消えないこともあります。
- 肝斑がベースにあるときには、肝斑を増悪させる可能性があります。
実際の症例です。
左頬部の3つのほくろにQスイッチルビーレーザーを照射しました。3つとも隆起のない平坦なほくろでした。
2回照射した後です。
3つとも薄くなっていることがわかると思います。ただし、完全に消えるにはあと数回照射が必要と思います。
このように、皮ふに傷を残さない治療法ですが、回数がかかるため気長に治療される方にしかお勧めできません。
手術料金(保険診療)
- 3割負担の時の支払い額になります。 1割負担の方はこの金額の1/3になります。
- 露出部は頭・顔・首・肘から下・膝から下の部分です。
- 下記料金以外にも初診料、再診料、処方料、薬剤料がかかります。
- 下記料金は本ページ作製時の金額です。診療報酬の改定により変更になる可能性があります。
- ほくろの炭酸ガスレーザーの治療について:2個までの治療のみ行います。
- ほくろの炭酸ガスレーザーの治療を美容目的のみで施行するときには自費治療となります。ほくろの部位や性状から、炭酸ガスレーザーが適切と医師が判断すれば保険治療となります。
- Qスイッチルビーレーザーと美容目的の炭酸ガスレーザーは自由診療です。初回の治療では治療費以外に自費の初診料が2,000円必要です。
ほくろの切除 |
露出部の2cm未満 |
手術代 4,980円+病理検査代 3,070円=合計8,050円 |
露出部の2cm以上 |
手術代 11,010円+病理検査代 3,070円=合計14,080円 |
露出部以外の3cm未満 |
手術代 3,840円+病理検査代 3,070円=合計6,910円 |
露出部以外の3cm以上 |
手術代 9,690円+病理検査代 3,070円=合計12,760円 |
ほくろの炭酸ガスレーザー(組織検査を行わない場合)医師が必要と認めたとき |
露出部の2cm未満 |
手術代 4,980円 (治療は2個までです) |
露出部以外の3cm未満 |
手術代 3,840円(基本的に炭酸ガスレーザーは行いません) |
ほくろの炭酸ガスレーザー(美容的な目的で治療するとき)自費治療 |
ほくろ 1個 |
手術代 8,000円 |
ほくろ 2個 |
手術代 11,000円 |
ほくろのQスイッチルビーレーザー 自費治療 |
ほくろ 1個につき
(直径が3oまで) |
照射代 1,000円(初回) |
照射代 600円(2回目以降) |
ほくろ (直径が3o以上) |
老人性色素斑に準じて照射します。 |
※令和5年3/12にほくろのQ-rubyの治療費を改定しました。
これまでは、1個について常時1000円でしたが、2回目以降の照射は1個600円に減額します。
実はこれまでは、2回目以降は少なめに算定していました。(5個照射したら3個分の算定とか、、、もちろん、高めに算定することはありません。)
ただし、患者さんから治療費が不明瞭だとの指摘を受けました。そのため、2回目の照射代を600円に減額する代わりに、治療した個数分はきっちりと算定させて頂きます。
Q&A よくある質問
手術は痛いですか?
局所麻酔(歯の治療の麻酔と同じもの)の時に痛みはありますが、手術中は痛みはほとんどありません。
手術後は痛いですか?
当日、翌日ぐらいまで痛みがあります。小さい傷(1cm以下)の場合はほとんど痛みはないようです。痛みに対しては痛み止めの内服薬を処方します。
入浴はできますか?
縫合したときは翌日からシャワーを許可しています。創部をシャワーで洗い流し、その後処方した消毒液で表面を拭いてもらいます。その後は絆創膏でカバーしてもらいます。炭酸ガスレーザーでは当日からシャワー、入浴とも問題ありません。処方した軟膏を外用してもらいます。
抜糸までの期間は?
顔面で5-7日目、手のひら、足の裏では14日目、それ以外は7-10日程度です。
組織検査の結果はいつ頃にわかりますか?
だいたい10日後くらいです。