円形脱毛症は一般にもよく知られた疾患です。
にもかかわらず、原因は未だはっきりとはわかりません。
考えられる原因としては、「精神的ストレス」「内分泌異常」「自己免疫疾患」などがあげられますが、決め手はありません。ただし、
円形脱毛症のほとんどは治療により発毛します。
原因は不明ですが、
病態はそれなりに判明しています。
脱毛した部位の皮ふを検査すると、毛根の周囲に白血球が集まっている所見が得られます。
すなわち、
自分の細胞が自分の毛根を攻撃しています。その結果、毛根が破壊されて、毛が抜けていると考えられています。
脱毛の範囲によって、
全頭脱毛症(脱毛が多発することで、頭髪のほとんどが欠損した状態)
汎発型脱毛症(頭髪以外に眉毛やわき毛、陰毛なども欠損した状態)
になることもあります。
これらは、
脱毛の程度の差ではありますが、基本は
円形脱毛症と同じ病態です。
円形脱毛症の原因は不明ですが、時には
別の病気があることで二次的に脱毛が生じることがあります。
特に女性では甲状腺疾患により脱毛することがあります。
そのため、多発する円形脱毛症では、初診時のみ、
@
甲状腺機能
A
膠原病
については、血液検査でチェックすること勧めます。
円形脱毛症の治療について
円形脱毛症のほとんどは自然に治癒します。
とは言え、多発する円形脱毛症は気になるし、時には全頭脱毛症→汎発型脱毛症と進行することもありますので、治療が必要です。
円形脱毛症の治療はすでに皮膚科学会でガイドラインが提唱されており、ほぼ確立しています。
基本的にはこのガイドラインに沿って治療すれば大丈夫です。
小さい表ですが、下にガイドラインを掲示します。クリックすると拡大します。
日本皮膚科学会、円形脱毛症の治療ガイドライン クリックで拡大します。
ガイドラインについて少し補足します。
@まず、
16歳以上と15歳以下に分けます。大人と子供では治療は違うということですね。
A子供の円形脱毛症は少ないので、大人の治療のみ説明します。
- 脱毛面積によって二つの群に分けます。全体の25%以上の脱毛があるかどうかです。全体の1/4以上の脱毛があれば、右の流れ。それ未満では、左の流れです。
- どちらの流れでも、現時点で脱毛が進行しているのかどうかで二つの群に分けます。進行しているときを「進行期」、脱毛の進行は止まっているときを「固定期」といいます。脱毛が進行しているとき(進行期)には、まず脱毛自体を止める治療が必要です。脱毛はとまっており脱毛斑のみが認められるとき(固定期)には、毛を生やす治療が必要になります。
- 脱毛が進行しているかどうかの判断には牽引試験を行います。引っ張って、容易に脱毛するようなら進行期と判断します。10回引っ張って、50本以上抜ければ進行期と判断するようにしています。
- 進行期では、まず脱毛を止めるための治療を行います。全体の1/4以上の脱毛があり、さらに進行しているときには、ステロイドのパルス療法(3日間大量のステロイドを点滴する。通常、入院が必要。)を行います。これは、総合病院で治療を受けてもらいます。 脱毛面積が1/4以下の場合は、ステロイドの内服で加療します。
- 固定期(脱毛は収まっており、脱毛斑のみ認められる状態)では、 毛を生やす治療を行います。いわゆる円形脱毛症の治療のほとんどはここに相当すると思います。ここについては、次の項に記載します。
実際の円形脱毛症の治療方法
円形脱毛症の治療には色々なものがあります。
その中には、勧められるもの、勧めがたいものもあり、玉石混交の状態です。
治療法とその推奨度をまとめたものです。クリックすると拡大します。
推奨度B(:行うように勧められる)の治療は、
ステロイド局注と
局所免疫療法のみです。
推奨度C1(:行ってもよいが根拠は少ない)の治療までは行ってもよいと思いますが、推奨度C2,Dの治療は勧められません。
当院では、
- 脱毛斑の数が少ない(全部合計しても手のひら大まで)ときは、ステロイド局注を行います。
- 脱毛範囲が広い(合計して手のひらを越える)ときには、局所免疫療法やエキシマランプの照射を勧めています。
ただし、
局所免疫療法は保険の適応がありません。私費の治療になります。
エキシマランプも円形脱毛症には保険適応がありません。 →
令和2年4月から円形脱毛症にも保険適応が認められるようになりました!
追記:円形脱毛症の治療のガイドラインが改定されました。
クリックで拡大します。
大きな変更はありませんが、
ステロイド外用療法はこれまで推奨度C1でしたが、推奨度Bに格上げされています。大きな理由はなさそうですが、長年日本では治療に使用されてきた経緯を鑑みてとのようです。
円形脱毛症のステロイド局注
ケナコルト-Aというステロイドの懸濁液と局所麻酔を混合して、注射器で皮ふに局注します。
局注は数カ所に分けて、少量ずつ注射します。
だいたい、
2週間から1ヶ月の間隔で局注を継続します。
あくまで、発毛を促す治療ですので、
発毛が認められた時点で局注を終了します。
1回の投与量はケナコルト-A 10mgを限度にしますので、総量としては5ml程度を局注します。
○利点
- 統計上、発毛効果が証明されている数少ない治療です。
- 即効性があります。多くの症例では、1ヶ月程度で発毛が認められます。
- 治療費用は安価です。1回の治療費は3割負担の方で約400円です。
○欠点
- 局注時に疼痛があるため、小児の治療には使用できません。
- 長期間に及ぶと皮ふが薄くなるという副作用があります。また、ホルモン剤ですので、女性では生理不順が生じることがあります。
- 妊娠中、授乳中の方には使用できません。
- 1回のケナコルト-Aの投与量に制限がありますので、手のひら大より広い脱毛症には適応できません。
- 繰り返すことで、局注した皮ふの脂肪が萎縮し凹んだ感じが残ることがあります。通常は、局注を終了すれば元に戻りますが、体質的に凹んだ感じがそのまま残る方がおられます。(発毛すれば外見上は気にならなくなりますが)
円形脱毛症の局所免疫療法
ステロイドの局注療法とならんで、推奨度Bに分類されている治療です。
ちょっと、話が複雑なので、別のページを作製しています。
ここを参照ください。
円形脱毛症の紫外線照射治療
紫外線を照射する治療です。
従来は、長波紫外線療(UVA)を照射していましたので、PUVA療法をよばれていました。
現在では、
中波紫外線(UVB)を照射することが主流になっています。
当院では、
エキシマランプという中波紫外線照射機で治療を行います。
最大の利点は、
疼痛がないことと一度に
広範囲の脱毛の治療ができることです。
欠点は、円形脱毛症には保険適応がありません。
令和2年4月から円形脱毛症にも保険適応が認められるようになりました!
そのため、現在の推奨度はC1(行ってもよい)ですが、次回の改定では推奨度B(行うように勧める)に格上げになるのではないかと予想します。
詳細は、
エキシマランプのページを参照ください。
円形脱毛症の冷凍凝固
院長が医者になった25年前に盛んに行われていたのは、
ドライアイスを押しつける治療でした。
現在では、ドライアイスの代わりに、イボの治療に使用する液体窒素で治療を行います。
液体窒素はほとんど全ての皮ふ科にありますので、どの皮ふ科でも治療が可能と思います。
利点は、比較的広範囲の脱毛の治療が可能です。比較的安価です。皮膚科医はイボの治療で液体窒素を使い慣れているので、トラブルは少ないかもしれません。
欠点は、押しつけるときに疼痛があります。他の治療に比べると、有効性は低い印象です。保険適応はありません。
詳細は、
イボの液体窒素の凍結療法のページを参照ください。
円形脱毛症の内服療法
進行期の円形脱毛症の治療にはステロイド内服が必要ですが、固定期の円形脱毛症の治療には別の内服薬が使用されます。
はっきり言って効果は微妙だと思いますが、推奨度はC1ですので不適切ではないと思います。
@セファランチン
Aグリチロン
B漢方薬
ストレスがあるとき:柴胡加竜骨牡蛎湯、桂枝加竜骨牡蛎
否定愁訴があるとき:加味逍遙散
神経質なタイプ :半夏厚朴湯
円形脱毛症の外用療法
単独での治療では効果は限定的と思いますが、そもそも円形脱毛症の多くは自然に治るので、少しアシストするくらいの意味では使用できると思います。
@フロジン液
Aステロイド外用剤
Bミノキシジル(リアップ「市販薬」)
オルミエント内服による治療
2022年6/20にオルミエントに円形脱毛症の適応が追加されました。
厳密に言うと、追加された適応は「円形脱毛症(ただし、
脱毛部位が広範囲に及ぶ難治の場合に限る)」とされていますので、最低でも
頭髪の25%以上の範囲に脱毛がある方を対象にしているものと思います。
オルミエントは、皮ふ科ではアトピー性皮膚炎の内服薬として適応があります。
詳しくは、
オルミエントなどJAK阻害剤のページに記載していますので、ご参照ください。
他の治療に反応しない難治性の円形脱毛症の患者さんでも高い有効性が示されています。
当院では現在数名の患者さんに投与していますが、いずれも効果は良好です。
血液検査、胸部Xp、結核の検査などが必要になります。そのため、検査のため内科を受診して頂きます。