重症の円形脱毛症の患者さんに対し、JAK阻害剤の適応が拡大されました。
現在、2つの薬剤に保険の適応が認められています。
1つ目は、
@ オルミエント
2022年6/20に円形脱毛症の適応が追加されました。
もともとはアトピー性皮膚炎の内服薬として皮膚科では治療に用いられていましたが、途中から円形脱毛症の保険の適応を拡大しました。
15歳から処方できます。
オルミエントについては、
アトピー性皮膚炎のJAK阻害剤のページを参照してください。
アトピー性皮膚炎のJAK阻害剤には3種類(オルミエント、リンヴォック、サイバインコ)がありますが、その中で
円形脱毛症に保険の適応があるのはオルミエントのみです。
2つ目は、
A リットフーロ
2023年9月に発売開始になりました。
現時点では円形脱毛症のみに適応のある薬剤です。
12歳から処方できます。
2024年9月から長期処方できるようになりました。初回投与時は1ヶ月分までですが、それ以降は最大3ヶ月分まで処方可能です。
作用機序について
薬理作用は極めて複雑です。院長も十分には理解できませんし、説明はなおのこと困難です。
それでも頑張って勉強してみました。それでも正確ではない内容があるかもしれません。
まず、円形脱毛症に主に関わるタンパク質は6つのようです。。
そのうち
炎症性サイトカインと呼ばれるものが5つ、別の経路で
TECファミリーキナーゼがあるようですね。
円形脱毛症に関与するタンパク質 |
活性化するJAkのタイプ |
炎症性
サイトカイン |
IFN-γ |
JAK1/JAK2 |
IL-2 |
JAK1/JAK3 |
IL-7 |
IL-15 |
IL-21 |
TECファミリーキナーゼ |
|
この円形脱毛症の発症に中心的な役割を担っているものが、
IFN-γとIL-15です。
下の図がこのサイトカイン/TECと円形脱毛症の作用メカニズムを図示したものです。
リットフーロの販売元であるファイザー製薬のページから拝借しました。
しかし、正直この図を見て、「フムフムなるほど」と言える人がそんなにいるとは思えません。。
もう少し、噛みくだいて見ていきましょう。
まず、円形脱毛症は
毛根の細胞を自身の白血球が攻撃して起こっていることを理解してください。
これが大前提です。
左のシェーマのように
自身の毛根周囲に白血球が集まり、
毛根を攻撃しています。
その結果、毛根が破壊され、脱毛が生じているのです。
拡大してみます。。
毛根と自分の白血球の間には何かしらのやり取りがあります。
その結果、毛根への攻撃が誘発されています。
毛根からIL-15が放出されます。
このIL-15が自分の白血球に作用して、IFN-γが放出されます。
今度はIFN-γが毛根に作用して、IL-15が放出されます。
この無限ループにより、炎症が持続して毛根が破壊され、脱毛を来します。
では、JAK阻害剤はどのように関わっているのでしょうか?
IL-15が白血球に作用するときに、
JAK1と
JAK3を経由します。
IFN-γが毛根に作用するときに、
JAK1と
JAK2を経由します。
この
JAKをブロックして、
IL-15とIFN-γによる無限ループを断ち切るものがJAK阻害剤と考えれば理解しやすいと思います。
ちなみに、2つのJAK阻害剤がどこに作用しているかというと、、、、下の図を参照ください。
JAK阻害剤 |
作用するJAK |
オルミエント |
JAK1とJAK2 |
リットフーロ |
JAK3とTECファミリーキナーゼ |
オルミエントとリットフーロで作用機序が異なることがわかると思います。
次にリットフーロがブロックする
TECファミリーキナーゼとは何でしょうか?
JAKを介する経路とは別に
TECファミリーキナーゼを介する経路があるようです。
この経路から刺激を受けてもIL-15が放出されるため、やはり無限ループが生じてしまいます。
JAK1と2をブロックするオルミエントとJAK3とTECファミリーキナーゼをブロックするリットフーロとどちらが有効なのでしょうか?
これはまだ結論は出ていないようですが、
国際臨床試験では、ほぼ同等の効果と推定されています。強いて言えば、バリシチニブの方が効果の立ち上がりが早く、リトレシチニブはゆっくり効いてくるという印象です。
これからの統計的なリサーチで追々傾向はわかると思います。
JAK阻害剤の治療基準
日本皮膚科学会が円形脱毛症へのJAK阻害剤に投与に対して、基準を定めています。そのため、この基準に該当する方でなければ投与はできません。
@ 日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドラインを参考に、円形脱毛症の確定診断がなされ ている。
A 以下のいずれにも該当する状態。
・頭部の概ね 50%以上の脱毛が認められる 。(頭髪の半分以上が抜けている必要があります。)
・現在の罹病期間が 6 ヵ月程度以上。( 毛髪の自然再生が認められない期間が半年以上持続している必要があります。)
B
投与前検査に異常所見がないこと。これは次の項目に記載します。
この条件を満たす方にJAK阻害剤の投与が可能です。
投与前検査について
JAK阻害剤を投与するには投与前検査を受けて頂く必要があります。
ここが一手間かかりますね。
結核、B型肝炎、C型肝炎、腎機能障害がないことを確認する必要があります。
皮ふ科開業医でJAK阻害剤の投与が難しい点は、この投与前検査にあります。
具体的には、血液検査と胸部レントゲンが必要です。
血液検査は当院でも可能ですので、受診日に検査できます。
ただし、胸部レントゲンの設備がありません。。
そのため、
内科あるいは外科などで胸部レントゲンを受けて頂く必要があります。 また、この検査は
2回/年で継続して頂く必要があります。
つまり、
皮ふ科開業医単独では治療を開始することができません。
当院から紹介状を記載しますので、ご希望の内科で胸部レントゲンを受けてもらい、異常がなければJAK阻害剤の内服を開始することになります。
JAK阻害剤の内服法
オルミエント、リットフーロとも1日1錠、毎日内服します。
内服はいつでも大丈夫です。食前、食後のいずれでもかまいません。
治療の効果は、
通常投与開始から 36 週までには得られます。
そのため、36 週までに治療効果が得られない場合は、投与中止を考慮することとされています。
つまり、まずは9ヶ月継続し、効果があれば継続しますし、その間の発毛がなければ終了します。
JAK阻害剤の治療費
JAK阻害剤は
1錠が約5,000円です、
つまり、1日5,000円を食べているようなものです。
かなり高価な治療であることがわかると思います。
薬剤費の概算ですが、
オルミエント / リットフーロ |
4週間 |
8週間 |
12週間 |
薬剤費総額 |
147,560円 |
295,120円 |
442,680円 |
3割負担の方の医療費 |
44,270円 |
88,540円 |
132,800円 |
最初は1ヶ月の処方です。内服して問題がなければ、一度の受診で3ヶ月分まで処方が可能です。