2020年12月25日にアトピー性皮膚炎の治療に
新たな内服薬が追加されました。
正式には
「ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤」と呼ばれる内服薬です。
アトピー性皮膚炎に適応がある
内服薬としては、
2008年10月のシクロスポリン(薬品名:ネオーラル)以来、実に
約12年ぶりの登場です。
最初に、オルミエント、次にリンヴォック、最後にサイバインコの順で発売されました。
とても有効な治療薬ですが、デュピクセントと同様に
とても高価な薬剤です。
また、治療を受けるためには、感染症に対する
事前の検査を内科などで受けて頂く必要があります。
その意味では、われわれ皮ふ科医が処方するには、デュピクセントよりも少しハードルが高い薬剤でもあります。
ただ、検査は半年に一度かかりつけの内科で受けてもらえば大丈夫です。
注射に抵抗がある方は、デュピクセントの代わりに選択してもよいかもしれません。
アトピー性皮膚炎に適応があるJAK阻害剤は3剤あります。
適応が追加された順番に、
@ オルミエント
15歳以上のアトピー性皮膚炎に投与できます。
→令和6年(2024年)3月から
2歳以上のアトピー性皮膚炎にも投与が可能となりました。
ただし、増量は認められていません。
A リンヴォック
12歳以上のアトピー性皮膚炎に投与できます。
効果が乏しいときには、
成人では1日2錠まで増量できます。
→令和6年(2024年)9月から
小児でも1日2錠まで増量できるようになりました。
B サイバインコ
12歳以上のアトピー性皮膚炎に投与できます。
効果が乏しいときには、1日2錠まで増量できます。
JAK阻害剤の機序について
分子標的薬ですが、生物学的製剤ではなく
免疫抑制剤に分類されるようです。
実は、オルミエントの適応追加の前の2020年6月に
「外用ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤」として、
コレクチム軟膏が発売されました。
詳しくは、
アトピー性皮膚炎の治療のページをご参照ください。
ですので、基本的な作用機序は
コレクチム軟膏と同じです。
簡略化して述べますが、
アトピー性皮膚炎の発症、増悪などに関与している
IL-4、IL-13、IL-5、IL-31などを介した情報伝達を阻害することで、炎症メカニズムの過程をブロックすると言われています。
この情報伝達に関与するのが、
「JAK/STATシグナル伝達経路」といわれる経路です。
オルミエントは、JAKの活性を阻害することでこの経路の情報伝達を阻害しています。
その結果、炎症や皮ふのバリア機能の低下を防いでアトピー性皮膚炎を改善します。
正直、正確な薬理作用は院長にもあまり理解できません。
アトピー性皮膚炎の発症に関与するコアな部分をおさえていると理解して頂ければよいかと思います。
JAK阻害剤の効果について
まだ、自身の使用経験がありませんので治験のデータでしか判断できませんが、
治験のデータでは、とにかく
かゆみを抑える力が強いようです。
内服して翌日には劇的にかゆみが減少しています。
皮疹については概ね1ヶ月で効果がピークになるようです。
JAK阻害剤の治療基準
基本はデュピクセントと同じです。
さらに、JAK阻害剤を投与するためには、
感染症に対する検査が必要となります。
@
既存の治療で効果が不十分な中等症〜重症の成人アトピー性皮膚炎患者
つまり、
ステロイド外用やプロトピック軟膏外用でコントロールできている患者さんには投与できません。
A
オルミエントは15歳未満には投与できません。また高齢者への投与は勧められていません。
リンヴォックと
サイバインコは
12歳以上で投与できます。
2024年3月からオルミエントが
2歳以上の小児にも適応になりました。ただし、小児用の細粒やシロップはありませんので、錠剤が内服できる年齢からの治療になります。
65歳以上への投与には慎重を期すように記されています。
B
多額の費用が負担できる方、あるいは何らかの補助が受けられる方
治療費については下に正確に記載しますが、
1ヶ月に約44,270円の治療費がかかります。かなり高額ですが、大企業のお勤めの方や公務員では、一定額を超えると補助がある場合が多く、職場で確認して頂くとよいかもしれません。
C
外用治療も併用できる方
この意図はよくわかりませんが、JAK阻害剤に頼らず外用もしっかり続けるようにと明記されています。JAK阻害剤で治療しても、いずれは外用主体の治療に移行するための伏線だと思います。
D
妊婦、授乳婦
妊婦には投与できません。授乳婦にも投与を控えるように記されています。
E
感染症と腎機能低下の否定が必要です
あらかじめ、血液検査、胸部レントゲン、ツベルクリン反応などで、感染症を否定する必要があります。同様に、血液検査で腎機能障害がないことを確認する必要があります。
これについては、次の項で説明します。
JAK阻害剤の投与前検査
結核、B型肝炎、C型肝炎、腎機能障害がないことを確認する必要があります。
皮ふ科開業医でJAK阻害剤の投与が難しい点は、この
投与前検査にあります。
皮ふ科開業医でレントゲンが撮影できる設備を持つことは一般的ではありません。例に漏れず、当院にも設備がありません。
そのため、これらの検査を
内科あるいは外科などで受けて頂く必要があります。
また、この検査は
2回/年で継続して頂く必要があります。
つまり、
皮ふ科開業医単独で治療を開始することができません。
当院であれば、近隣の内科に検査をお願いすることになると思います。
ここがデュピクセントとの大きな違いですね。
なかなかハードルが高い薬剤ということになります。
JAK阻害剤の投与に対する条件
投与前検査が問題ないとしても、
デュピクセントと同様に投与においては
たくさんの条件が付けられています。
まず、われわれ
医療側としては、
@医師免許取得後2年の初期研修を終了した後に、
5年以上の皮膚科診療の臨床研修を行っていること。
という条件があります。
もちろん、
当院ではこの基準をクリアしていますので、問題ありません。
次に、
患者側としては、
A成人アトピー性皮膚炎と診断されており、かつ
ステロイド外用剤やプロトピック軟膏にて6ヶ月以上治療を行っている。(あるいは、副作用や過敏症のため、これらの外用療法が継続できない)
という条件があります。
でも、普通に考えると、この条件をクリアできていない患者さんにオルミエントを投与することはないと思います。
そして、最後にちょっと大変な条件があります。
B次の3つの項目を判定して、一定のスコア以上である必要があります。
- IGAスコア が3以上
- 全身のEASIスコア16以上,または顔面の広範囲に強い炎症を伴う皮疹を有する(目安として頭頸部のEASIスコアが2.4以上)
- 体表面積に占めるアトピー性皮膚炎病変の割合(%)が10%以上
これらのスコアは、医師が皮疹の状態を見て判定します。
ですので、患者さんにはこのスコアを気にして頂く必要はありません。
軽症のアトピー性皮膚炎には投与しないようにという、われわれに対する戒めだと思います。
JAK阻害剤の内服法
JAK阻害剤はどの薬剤も1日1錠、毎日内服します。
内服はいつでも大丈夫です。食前、食後のいずれでもかまいません。
経過により増量できるのは、リンヴォックとサイバインコです。
オルミエントの増量は認められていません。
また、リンヴォックの増量は成人のみと記載されています。
サイバインコは小児でも増量できるのかもしれません。(未確認ですが、添付文書上は制限はなさそうです)
JAK阻害剤の治療費
JAK阻害剤
1錠が約5,000円です、
つまり、1日5,000円を食べているようなものです。
かなり高価な治療であることがわかると思います。
治療費の概算ですが、
オルミエント4mg |
4週間 |
8週間 |
12週間 |
薬剤費総額 |
147,560円 |
295,120円 |
442,680円 |
3割負担の方の医療費 |
44,270円 |
88,540円 |
132,800円 |
最初の投与は1ヶ月分の処方になります。
そのため、いずれの所得の方でも、高額療養費制度の適応には該当しません。
1ヶ月内服して問題ないことが確認できれば、3ヶ月分まで投与が可能です。