トリクロロ酢酸とは酸の一種であり、
タンパク質や核酸の変性作用が強いため、直接イボのウイルスDNAを破壊し、イボが感染した組織を変性壊死させることができます。
当院ではこのトリクロロ酢酸を精製水に溶解し70%の飽和溶液を作製して、イボの治療に使用しています。
当院で作製したトリクロロ酢酸溶液です。
トリクロロ酢酸の治療方法
治療法は至って簡単です。
トリクロロ酢酸溶液の中に竹串をいれて、先にトリクロロ酢酸溶液を含ませます。
このトリクロロ酢酸溶液を含ませた竹串をイボに少し突き刺すように当てて、イボの中にトリクロロ酢酸溶液を染み込ませます。
イボが大きいときは、竹串の反対側で同じように行います。
同じ処置を数回くり返して、トリクロロ酢酸溶液を十分イボに染み込ませます。このとき、軽い鈍痛があることがあります。
完全に乾くまで待って、治療は終了です。以上の治療を1週間毎にくり返します。
治療した日には
患部を濡らしてはいけません。濡らすと、トリクロロ酢酸が溶解し周囲に炎症を起こすことがあります。ですので、当日の
入浴は控えて頂くか、濡らさないように入浴して頂きます。
また、治療をした部位を
口に入れたり、目をこすったりしてはいけません。ですので、小児の指ではトリクロロ酢酸溶液の治療を行わない方針です。
実際の経過です。
足底の疣贅です。
トリクロロ酢酸溶液を3回塗布して、1週間後です。少し白く変わっているのがわかります。
カミソリで変性したイボを削り取りました。まだ残りがありますので、さらにトリクロロ酢酸溶液を塗布します。イボがなくなるまで、同じ処置をくり返します。
1ヶ月以上治療しても効果がないときには、トリクロロ酢酸溶液を染み込ませた上からスピール膏を貼付することもあります。
万人に効果があるとは保証できませんが、半年間くらい継続してもらうと高度なイボでも驚くくらいきれいにとれることもあります。ただし、週に1回以上の通院が必要ですのでその点はよく考えていただければと思います。
実際の症例です。母親の同意の下に掲示しています。
9歳、男児です。 冷凍凝固を数回行いましたが、脱落しませんでした。トリクロロ酢酸を希望されました。
トリクロロ酢酸を15回塗布しました。毎週きちんと通院されました。
イボはきれいに脱落しています。
トリクロロ酢酸で効果がある方に共通していることは、
毎週きちんと再診されることです。不定期な治療ではなかなかよい結果が得られません。
トリクロロ酢酸の治療の特徴
トリクロロ酢酸の治療期間は、
他の治療方法に比べると長くなり、数週間から数カ月の間に何度も繰り返して行う必要があります。
最大の利点は
痛みがほとんどないことです。
そのため、液体窒素による凍結療法が痛くて継続できない
小児によい適応になります。また、指の爪のまわりなど凍結療法で水ぶくれができると生活に支障が生じるところにもよい適応になります。
そのかわり、ほぼ
毎週の通院が必要です。
また、この治療は
健康保険に認められておりません。
当院では特別の治療費を徴収しておりませんので、初診料あるいは再診料のみとなります。しかし、カミソリで削るときにはその治療費を保険診療で頂きます。
治療の前にはトリクロロ酢酸溶液の治療内容を書面にて説明し、
同意書に署名を頂く必要があります。
トリクロロ酢酸の利点と欠点
- 利点
- 治療の痛みがほとんどありません。←最大の利点です。
- 凍結療法が効かないイボにも効くことがあります。
- 治療後、水ぶくれになることはほとんどなく、生活への支障がありません。
- 欠点
- 毎週の通院が必要です。
- 凍結療法よりも有効性は低いです。何度もくり返して治療する必要がありますが、長期間に及ぶ可能性があります。
- 健康保険が適応されません。
- 粘膜に近い部位の治療には適しません。口のまわりや目のまわりなど、体液で溶解しそうな部位には使用できません。
Q&A よくある質問
治療期間は?
3ヶ月程度を考えてください。それ以上かかることもあります。半年続けても改善しないときは、別の治療に切り替えた方がいいです。
誰でも治療できますか?
液体窒素による凍結療法が優先される治療です。トリクロロ酢酸の治療は痛みのため治療を継続できない小児や治療により生活に支障が生じる指まわりに選択的に行います。ですので、トリクロロ酢酸の治療を希望されても、お受けできないこともあります。
本当に痛みはないのですか?
基本的に痛みはありません。数時間〜半日後にイボの組織が破壊されることによる鈍痛が生じることがあります。反応が強いと水ぶくれや壊死を起こすことがありますが、通常は自然に落ち着きます。反応が強いときは医師に相談してください。
他の治療と併用できますか?
他の治療とは併用しません。ヨクイニンの内服は併用しても大丈夫です。
トリクロロ酢酸溶液は体に悪影響はないのでしょうか?
イボに対して所定の用量用法で治療する限り、体に悪影響はありません。ただし、大量に使用すると中毒症状を示すことがあります。念のため、妊婦と授乳中の方には治療を行わない方針です。