2012年に保険が適応されるようになった、
重症の腋窩の多汗症に対する治療法です。
従来の内服や外用治療と違い、注射の治療です。
一度の治療で、
4-9ヶ月間効果が持続します。春に治療すれば、およそ夏の間は効果が持続します。
非常に有効な治療で、持続が長いことが特徴ですが、安価な治療ではありません。
費用対効果をよく考えて、治療を受けられることをお勧めします。
ボトックスとは
A型ボツリヌス菌毒素製剤
ボトックスとは、A型ボツリヌス菌毒素製剤です。
ボツリヌス菌が産生する複合体毒素であり、神経の伝達をブロックする特性があります。
ボツリヌス菌毒素は猛毒であり、1984年辛子蓮根で集団食中毒を生じ、11名の死者を出したのもこのボツリヌス菌毒素です。
それだけを聞けばとても怖い治療と思われがちですが、所定の容量を適切な部位に投与すれば危険はありません。
とは言え、本剤の取り扱いにあたっては十分な注意が必要です。 本剤を扱うには事前に講習を受ける必要があり、廃棄に関する記録は保管するよう義務づけられています。
ボトックスの作用機序
ボトックスの作用機序のシェーマ(自作です。)
多汗症の原因は、
エクリン汗腺という汗の腺の機能亢進です。この汗腺は交感神経節後ニューロンという神経線維から放出される
アセチルコリンの刺激で汗を分泌します。
つまり、
多汗症の治療のためには、このアセチルコリンの刺激を止めればよいことになります。
ボトックスは、神経終末におけるアセチルコリンの放出を阻害し、神経から汗腺への情報伝達を遮断すします。
遮断された伝達は数ヵ月で回復しますので、発汗抑制効果を維持するためには反復投与が必要です。 効果の持続期間には個人差があり、国内外のデータでは通常4〜9ヵ月とされています。
ボトックスの実際の治療法
モニターの方を募集して写真を撮りました。
まず、ヨードデンプン反応を利用して腋窩の発汗の範囲を調べます。
イソジン液を塗布した後に、澱粉を振りかけ、刷毛で広げます。
10分間そのままにすると、汗が出た部位はイソジンと澱粉が混ざり、ヨードデンプン反応により藍色に染色されます。
藍色に着色された部位を覆うようにマーキングします。(写真は3分しか待たなかったため、染色が弱いです。)
注射の痛みに対して、希望があれば鎮痛目的のエムラクリームを塗布します。(希望がなければエムラクリームは省きます。)
エムラクリームを塗布したときには、30分間ラップをして待ちます。
両腋窩に15ヶ所くらいずつ、1-2cm間隔で注射部位をマーキングします。
30ゲージ針で皮内にボトックスを注射します。(エムラクリームを塗布すると、皮膚を貫通するときの痛みは楽になります。注射時の痛みはそれなりにあります。)
反対側の腋窩にも注射を行い、マーキングを拭き取ってから、軽くガーゼを当てて終了です。
ボトックスの治療までの流れ
ボトックスの治療は来院日にすぐに受けることはできません。
なぜなら、事前登録とその後に薬剤を発注する必要があるからです。
つまり、患者さんが来院して治療を希望されたときに初めて、薬剤を発注できます。
そのため、キャンセルは受け付けられません。
下に治療までフローチャートを示します。
来院日から最短で2日後に治療が可能です。
ただし、予約治療で行いますので、当院の治療予約が取れる日になります。それがいつになるかは来院日でなければわかりません。
ボトックスの治療を受けることができない方
- 全身性の神経筋接合部の障害をもつ方(重症筋無力症、ランバート・イートン症候群、 筋萎縮性側索硬化症等)
- 妊婦又は妊娠している可能性のある婦人及び授乳婦 (妊婦、授乳婦に対する安全性は確立されていません。)
- 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
- 慢性の呼吸器障害のある患者(本剤の投与により、病態を悪化させる可能性があります)
- 重篤な筋力低下あるいは萎縮がある患者(本剤の投与により、症状を悪化させる可能性があります)
- 閉塞隅角緑内障のある患者又はその素因(狭隅角等)のある患者(本剤はアセチルコリンの放出抑制作用を有するため、症状を悪化させる可能性があります。)
- 高齢者(何歳からを高齢者とするかは明記されていませんが、、、)
ボトックスの治療費
両側の腋窩に治療することを前提にしています。
平成30年4月の診療報酬改定により減額になりました。
令和4年4月の診療報酬改定により少し減額になりました。
手技料(3割負担) |
1,200 円 |
ボトックス100単位+生理食塩水20ml(3割負担) |
26,100 円→20,800円→19,010円 |
エムラクリーム 約4g(3割負担) 希望者のみ |
約300 円 |
ヨードデンプン反応による発汗部位の確認
(希望者に初回治療時のみ) |
|
合計(3割負担の概算)) |
27,600 円→22,300円→20,600円 |
エムラクリームとヨードデンプン反応による発汗部位の確認は希望者に初回治療時のみ行います。
Q&A よくある質問
ボトックス投与後の注意点は?
注射後の安静は必要ありません。普段通りの生活で結構です。ただし、当日の長時間の入浴や激しい運動など血液の流れを増加させる行為は控えてください。翌日からは制限はありません。
女性は治療後2回の月経が終わるまで、男性は治療後3ヶ月が経過するまで、避妊に必要な措置をとってください。
子供でも治療できますか?
斜頚や痙縮では2歳以上で投与可能ですので、小児へ使用できない薬剤ではありません。ただし、多汗症では、「成人にはA型ボツリヌス毒素として片腋窩あたり50単位を、複数の部位(10〜15ヵ所)に1〜2cm間隔で皮内投与する」
となっておりますので、薬事上の成人「15歳以上」が治療可能な年齢となります。
ボトックスを投与してから効果が現れるまでの日数は?
個人差がありますが、通常は注射後2-3日間で効果が現れ、1-2週程度で安定します。効果の持続期間はだいたい4-9ヶ月です。
治療は何度でもくり返すことができますか?
一度治療して4ヶ月経過すれば、次の投与が可能です。ただし、短期間での治療の繰り返しは効果の減弱を招く可能性があります。従って、毎年春頃に治療し、その後は塩化アルミニウム溶液を併用してしのがれることがよいかと思います。
手掌と足底の治療はできないのでしょうか?
理論上は、手掌、足底でも効果は期待できます。しかし、腋窩よりは治療効果は劣るといわれています。
また、一番の問題は注射時の痛みです。手掌は皮膚が厚く知覚も敏感なため、針を刺して薬剤を注入するときの痛みは腋窩の数倍はあると思われます。
エムラクリームを塗布して1時間待てばある程度は緩和できるかもしれませんが、それにしても痛みが皆無ということはありません。
また、現時点では保険適応がありません。手技料、薬剤費など全てが自費の治療になりますので、治療費は高額になります。