太陽から地上に届いている光は、
赤外線・
可視光線・
紫外線があります。
赤外線は赤く、紫外線は紫なんて印象がありますが、そうではありません。可視光線は目に見える光ですが、赤外線と紫外線は目に見えない光です。これらどうやって決まっているかといえば、波長によって決まっています。
下のシェーマを見て下さい。
可視光線は、波長が約400nm〜800nm、紫外線は14nm〜400nm、赤外線は800nm〜400000nmの範囲になります。
さらに、近紫外線を、その波長により、UV-A, UV-B, UV-Cと分類します。
皮膚科の光線療法というと、おもにこの近紫外線を用いることがほとんどです。
光線療法の歴史は古く、1893年デンマークのニールス・フィンゼンによって世界で初めて太陽光線と同じ連続スペクトル光線を放射するカーボンアーク灯(人工太陽灯)開発され、当時不治の病と言われていた皮膚病(皮膚結核)を根治させたことが始まりです。これを皮切りに光線療法は世界中に広がりました。
わが国では1903年、東京大学皮膚科で初めてカーボンアーク灯による光線療法が開始されました。
院長が医者になった頃には、ゲッケルマン療法という治療が尋常性乾癬(じんじょうせいかんせん)の患者さんに行われていました。(広島大学ではわりと最近まで行われていました。)
この治療は、コールタール軟膏を塗布して翌日太陽灯を当てるというものです。今から思うと、どうして太陽灯でなければならなかったのかよくわかりません。途中からは太陽灯が壊れてUV-Aを当てていましたので、それでも問題ないのだと思います。
紫外線療法について
先ほども述べましたように、皮膚科で光線療法を行うとすると、ほとんどが紫外線療法です。
紫外線療法は、1910年に紫外線を電気的に発生させる装置が発売されてから、治療に応用されるようになりました。
紫外線には波長の長い順に、
UV-A(長波長紫外線、315−400nm)
UV-B(中波長紫外線、280−315nm)
UV-C(短波長紫外線、100−280nm)
があります。
そのなかで、光線療法に用いるのは、
UV-Aと
UV-Bです。
以前は、
UV-Aの照射が中心でした。
このような機械を用いて、皮疹にUV-Aを照射していました。
ただし、
UV-Aは反応に時間がかかるため、事前にソラレンという光の吸収をよくする薬を塗ってから、治療する必要があります。これを一般に、
外用PUVA療法といいます。これに対し、ソラレンを内服した後に治療する内服PUVA療法もありますが、院長は経験がありません。
昔、皮膚科で光線療法を受けられた方の中には、事前の準備が大変だったという記憶があるかもしれません。それは、このソラレンを塗るという行為がかなり大変だったためです。しかも、ソラレンを塗ると日光の吸収もよくなるため、夏には病院からの帰り道に日光でやけどする方もおられました。
これに対し、
UV-Bは反応が早いため、ソラレンの外用を必要としません。そのまま照射することができます。手間は省けますが、その代わり、
組織への障害性が大きいため、容易に日焼けしますし、くり返すことで
皮膚がんを引き起こすなど、望ましくない反応も誘発することになります。
この
UV-Bの治療の弱点を補う目的で考案されたのが、ナローバンドUVBの治療です。
ナローバンドUVBの治療について
2002年、現在のテルモ・クリニカルサプライ株式会社が国産で初のナローバンド UVB照射機を発売しました。それ以後、日本におけるナローバンド
UVB治療の本格的な普及が始まりました。
前に述べたように、
UV-Bとは波長が280-315nmである紫外線です。しかし、
治療に必要な波長はもっと狭いことが、その後の研究でわかりました。例えば、Parrish&Jaenickleは乾癬に対する有効波長を検討して、
304-313nmの領域で治療効果があることを明らかにしました。
しかも、UV-Bの波長の中で日焼けを起こしたり、皮膚がんを誘発するなど有害な波長は280-300nmであることもわかりました。
つまり、
UV-Bの波長の中でこれらの有害な波長をカットし、治療に必要な波長のみ取り出すことができれば理想的な治療が可能になります。
この目的で開発されたのが、ナローバンドUVBの照射装置です。
上の図に示すように、
ナローバンドUVBの機器から照射される波長は309-313nmの極めて狭い領域が中心です。
つまり、
UV-Bの波長から有害領域をカットし、治療に有効な領域のみを抽出することで、有効かつ安全な治療ができるようになりました。
ナローバンドUVBが有効な疾患
このように、非常に優れた治療機器であるナローバンドUVBですが、全ての病気に有効というわけではありません。(あるいは、有効であっても保険適応になっているとは限りません…)
<ナローバンドUVBが保険適応になる疾患>
・尋常性乾癬
・アトピー性皮膚炎
・尋常性白斑
・掌蹠膿疱症
・類乾癬
と決まっています。
※令和2年4月の改訂で
・円形脱毛症にも保険が適応となりました!
それ以外にも、
・結節性痒疹
にも有効とわかっていますが、残念ながら保険適応がありません。
従来の治療法にナローバンドUVBを組み合わせる事によって内服やステロイド外用の量を減らすことが期待できます。また、安全性が高く、
小児や妊婦にも使用可能な点も利点です。
ナローバンドUVBの治療回数
もちろん疾患の種類や個人の体質によって異なりますので、平均的な治療回数だと思って下さい。
疾患 |
治療に要する照射回数 |
1週間の照射回数 |
尋常性乾癬 |
endless |
1〜2回 |
尋常性白斑 |
25回 |
1〜2回 |
掌蹠膿疱症 |
endless |
1〜2回 |
アトピー性皮膚炎 |
経過次第 |
1〜2回 |
ナローバンドUVBの照射機器
大きく分けると
畳半畳分の面積のもの。
畳一畳分の面積のもの。
一般に全身型といいます。
この2つはいずれもベッドに横になってから照射します。
ハンディタイプ。
院長は見たことがありません。
そして、当院にもあるような立位で照射する全身型です。
ダブリン7という機器です。
一番の特徴は、立位で照射ができますので、全身に皮疹があるときには前面と裏面の2回で照射が完了します。
非常に短時間で治療を行うことができます。
反面、顔のみとか、手のみなど、狭い範囲の病変の治療には向きません。
そのような病変には、エキシマランプを照射します。
ナローバンドUVBの実際の症例
なかなか写真を撮る疾患ではないため、呈示できる写真はほとんどありません。
尋常性白斑(白なまず)の症例です。
ダブリン7で11回照射しました。
ある程度、色素の新生が認められます。現在はエキシマランプを照射中です。
ナローバンドUVBの治療費
健康保険は適応されます。
以下の金額は3割負担の場合です。
初再診料、処方料などは別途必要です。
治療には、週に1回程度の照射が必要です。
特に、治療を開始して1ヶ月は週2-3回の照射が望ましいといわれています。